絵も文字も下手な看板海の家 小野あらた「毫(2017)ふらんす堂」
作者の恩師である佐藤郁良さんが句集の序を書いていらっしゃいます。「その当時のあらた君は、決してはきはきしているとは言えない、どちらかと言えばおとなしくおどおどした感じの少年であった。目から鼻に抜けているような先輩達に囲まれて、皆にマスコット的存在として可愛がられるうち、いつの間にか『あらら』という俳号で呼ばれるようになった。そのあらら君が高校一年のとき、初めて開成Bチームの一員として俳句甲子園に出場した。先輩達のAチームが初日に敗退するアクシデントの中、一年生ばかりのBチームが順調に勝ち上がり、ついに優勝してしまった。その大会で披露されたのが冒頭の海の家の句なのである」と。
俳句の季語は、季節を象徴する磨き抜かれた言葉。桜といえば、現実にはあり得ないほどの花盛りを。雪といえば、歳末のカレンダーの写真に登場するような見事な雪景色を思います。海の家ならば「避暑用のビーチハウス」。そもそも「避暑という習慣は主に明治以降海外からもたらされたもの」と角川の大歳時記に。しかし、掲句の海の家はかなりしょぼい。ですが圧倒的なリアリティがあります。現実の海の家ってこんな感じだよね。誰もが思っていて、俳句に詠むまでもないと見向きもしなかった素材を見つけてきて作品にした。この素材選びのセンスがすごい。俳句甲子園で審査員が軒並み、9点、10点をつけたというのも頷けます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html