かみごなかしちしもご・上五中七下五【超初心者向け俳句百科ハイクロペディア/蜂谷一人】

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俳句は五七五。はじめの五文字を上五。真ん中を中七。最後を下五と呼びます。

突然ですが今、あなたは仕事を終え家路に着きました。ふと見ると新しく出来たラーメン屋さんがあります。美味しそうなので、ふらふらと吸い込まれます。メニューをじっくりと検討し、500mlの生ビール中ジョッキと一皿七個の餃子、それに五百円のラーメンを注文します。500ml、七個、五百円。わざとらしい数字が並んでいますが、気にしないでください。この夕食がわびしいのか、大満足なのか、それは料理の出来栄えによります。ビールがきんきんに冷えていて泡の状態も申し分なく、餃子は肉汁たっぷり、ラーメンは麺とスープの相性が抜群だとします。ならばこの夕食をあなたは心から楽しむことができるでしょう。その反対なら、きっとあなたは店に文句を言いたくなる筈です。勿論 礼儀正しいあなたはそんなことはせず、店の看板を蹴飛ばして立ち去るだけでしょうが。

 このラーメン屋さんが俳句です。同じラーメン餃子でも 一時間並んでも食べたいものと、お金をもらっても願い下げの代物がありますよね。それが名句と駄句の違いです。出てくる順番も重要です。通常はビール、餃子、ラーメンの順でなくてはなりません。まず冷えたビールをぐびっ。しかる後に熱々ぱりぱりの餃子。〆のラーメン。これが定型です。もし、ビールより先に餃子が出てきたら?軽い食感のジューシーな餃子なら気にしないかも知れません。ビールがちょっとぐらい遅れても待つ余裕があります。でもラーメンが最初に出たら?あなたは店主に「まずビールを出してよ」というでしょう。

 物事には順序があります。このビール、餃子、ラーメンの順が定型の五七五です。しつこいようですが500ml、七個、五百円。餃子が一番先に来た場合は七五五。上五の字余りになります。ではビール、餃子の順に来たものの餃子が七個ではなく八個だったら?これが中八です。少々食べ過ぎです。もうラーメンが入りそうにありません。七個と八個、わずかな違いですが、印象は大きく異なります。お腹にもたれます。〆のラーメンまでまずく感じてしまいます。中八が忌み嫌われる理由です。

 ビール、餃子とつつがなく進行し、ただ最後のラーメンが500円ではなく600円だったとします。勘定のときあなたは「このラーメン、600円だったのか。高いけれどまあ仕方ないや」と思うでしょう。許容はしますが、少々もやもやしたものが残りますよね。これが下六です。下五から一音多い状態です。ラーメンが期待より美味しかった場合のみ、下六は我慢できます。また来ようと思わせるには、余分に払った100円分の値段にふさわしい味が必要です。

上五の字余りは許容。中八は厳禁。下六はよく考えて。

 と言っても具体例がないと分かりにくいかもしれませんね。このラーメン屋さんを無理やり俳句に詠んでみます。季語はいずれもビール(夏)ですが、印象の違いを確認してください。

十席の店に一人や生ビール
これが五七五。いわゆる定型です。

上五の字余りなら
チャーシューメンの肉がつまみや生ビール
七七五です。チャーシューメンと一気に読み下せば勢いが出るか知れません。

中八なら
まづ開く写真週刊誌生ビール
五八五。やはりちょっともたつきます。

下五の字余りなら
とりあへずビール注文頬杖つき
五七六。結句のうら寂しい感じには字余りが案外あっているかも知れません。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

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