目次
加舎白雄の俳句一覧
春
未分類
- 我と世をのがれん身にも初日影
- 初がすみきその嶽々たのもしき
- 万歳の頤ながき旦かな
- 心こめて筆試ることしかな
- うち離し馬も嘶へよ薺の夜
- 大雪の旦若菜をもらひけり
- 七種のそろはずとてもいわゐ哉
- 薺売鮒の釣場をおしへけり
- 粥草や葛飾舟の朝みどり
- かゝり舟岬のまつに子の日せよ
- 簾戸に鯛のこけちる春日哉
- ながき日やみちのくよりの片便
- 永き日や鶏はついばみ犬は寝る
- 遠浅に小貝ひらふや夕霞
- 国に添て霞をはこぶうしほ哉
- 星きへて霞かゝれる檜原哉
- うら若き川原蓬やはるの風
- はるかぜに吹かるゝ鴇の照羽かな
- 陽炎やしづかなる日の敷がはら
- 糸遊に児の瞬きやさしさよ
- 海はれて春雨けぶる林かな
- 春さめのこゝろながくも降日かな
- 春雨や傘さしつれし浜社
- 朧夜や誰か寝て行鹿島舟
- 春の水藻臥の蜷も得たりけり
- 山焼やほのかにたてる一ツ鹿
- 越わびて淋しうなりし焼野哉
- いとまなき世や苗しろの薄緑
- なはしろに鴎追るゝ磯田かな
- はつむまやななつの年のくゞり道
- 涅槃会や身は寺入の穀つぶし
- 去年よりことし仏のわかれ哉
- 藪入や桃の径の雨にあふ
- 凧空見てものはおもはざる
- 葛飾や 雛もわたすわたし守
- 旅人の窓よりのぞくひゐなかな
- 蝋燭のにほふ雛の雨夜かな
- 歩み来ぬ岬のなりに汐干狩
- 出ばやな籬の野べの麦踏に
- 水鳥の帰ていづこ種おろし
- 猫の恋六日とし越ふけにけり
- 山里や馬槽にきじの歩みよる
- 鴬に圃すこしある屋敷かな
- うぐひすの今朝たく柴にとまりけり
- 巣燕に雑巾かけし柱かな
- 巣乙鳥の下に火をたく雨夜かな
- はしり帆の帆綱かいくゞるつばめ哉
- 巣つくるや憎き鴉も親ごゝろ
- はつ蝶のちゐさくも物にまぎれざる
- 蝶とぶやあらひあげたる流しもと
- 蜂の巣もひとだのめなるのき端かな
- 舞すくむ虻や地にそふ影久し
- 瞬くや旦の小田の蛙ども
- 美しや春は白魚かいわり菜
- 土舟や蜆こぼる ゝ水のおと
- まてぐしに哀は馬刀のちから哉
- 若艸や栞にむすぶ古すゝき
- 富家もまづしき門もうめさきぬ
- 夜の梅いねんとすれば匂ふ也
- 鳥の嘴白玉椿きはつきし
- あかつきや人はしらずも桃の露
- 朝雨や簾ごしなるなしの花
- 袖ずりに崖のあんずも花咲し
- 梢ふむ道に辛夷の白きかな
- 寺々を通りぬけけり花ざかり
- 鮎くむや桜うぐゐも散花も
- をちこちの桜に舫ふいかだ哉
- 水つたふうしろの丘やつ ゝじ咲く
- 物がたり読さして見る藤の花
- 月遠く柳にか ゝる夜汐かな
- 夕汐や柳がくれに魚わかつ
- 菫野に土竜のあげし瓦哉
- 菫艸杉の古根に咲入し
- 早蕨や一日路ならつくばやま
- 野の朧茅花月夜といはまほし
- たんぽぽに東近江の日和かな
- 杉苗に杉菜生そふあら野哉
- 萍や生そめてより軒の雨
- 石原やくねりしまゝの花あざみ
- 御田植の酒の泡ふく野風かな
- 明やすき夜を泣児の病かな
- すゞしさや蔵の間より向島
- 風かほれ唐とやまとの墨の色
- もたれあひてみなもろかづらさみだる ゝ
- さみだれやけぶりの籠る谷の家
- 町中をはしる流よなつの月
- 雲の峯きのふに似たる今日も有
- 傘さしてふかれに出し青田かな
- うつくしや榎の花のちる清水
- 樟の香の去年を栞の清水かな
- 潅仏や芍薬園を見すかして
- 潅仏や門を出れば茶の木原
- いまふきしあやめにくもの工哉
- 笹粽わけ来し道のおもはる ゝ
- 更衣簾のほつれそれもよし
- かへるさや胸かきあはすころもがへ
- 虫干や庵に久しき松ふぐり
- 早乙女のうしろ手しばし夕詠
- 早乙女や水に倦みては海へ向く
- 下京やかやりにくれし藍の茎
- 嫗ひとり蚊遣に照らす白髪哉
- 牛洗ふ人の声聞け宵祭
- 蜀黍のもとにかたらふすゞみかな
- 舷に蓼摺小木や夕すゞみ
- ゆかしとやひと見む合歓の下涼
- 鵜の嘴に魚とり直す早瀬かな
- 水くれて三十日に近き鵜川哉
- 川狩や鮎の腮さす雨の篠
- 熊野路に只夏念仏を申かな
- 海川や御祓のあとの雨の声
- 艸の葉に見すく鹿の子の額哉
- むら松やきえんとしては行ほたる
- かんこ鳥いまやくれぬとあや啼す
- 子規なくや夜明の海がなる
- つゝ鳥や岐蘇のうら山きそに似て
- 翡翠の筑波おろしに吹るゝか
- 蝉啼てくるしや蓑のむらかはき
- 降晴て杉の香高し蝉の声
- 煤茅にすゝけておかしかたつぶり
- かたつぶり落けり水に浮もする
- 竹伐りて蚊の声遠き夕哉
- 鯖売の闇路をこゆる安宅哉
- 砂ふるへあさまの砂を麦うづら
- わか竹や牛のゆく筋あらしふく
- むら雨や見かけて遠き花楝
- たちばなにかたちづくりす夜の軒
- 園くらき夜をしづかなる牡丹哉
- 芍薬や四十八夜に切つくす
- 花罌粟にくむで落たる雀かな
- あぢさゐやしばし日のさす蔵の間
- 瓜の香にきつね嚏月夜かな
- ひるがほや日のいらいらと薄赤き
- 葉がさねのひさごの花や石の露
- 白蓮にゆふ雲蔭るあらし哉
- 岩ばなや旅人労ていちご食ふ
- 蟻のより釣鐘草のうつぶせに
- 世のたとへありとも知らじ蓼の虫
- 風蘭や越にひとりの友が軒
- むさし野や艸七尺に秋のたつ
- はつ秋や誰先がけし筥根山
- 八朔のさぞ稲雀竹にさへ
- 秋日和鳥さしなんど通りけり
- うぶ髪の古郷遠き夜寒かな
- 我庵へなき魂かへれ夜半の秋
- 語れかし秋のゆふべの蓑作り
- 秋の夜を小鍋の鯲音すなり
- 行雲やあきのゆふべのものわすれ
- 鶴おりてひとに見らる ゝ秋のくれ
- 大寺や素湯のにへたつ秋のくれ
- 行秋の草にかくるゝ流かな
- 行秋に鮎のしら干哀れなり
- 冬近き日のあたりけり鳶の腹
- すり寄て墓の秋風きく日かな
- 吹尽しのちは草根に秋のかぜ
- 天の川野末の露を見にゆかむ
- 天の河星より上に見ゆるかな
- いなづまの衣を透す浅茅かな
- いなづまやしやくりまぎる ゝ宵の門
- 露けしや高灯籠のひかへ綱
- ものゝ音秋は露さへしぐるゝか
- 小夜中や野分しづまる夢心
- 艸の原きりはれて蜘の囲白し
- 霧の香や松明捨る山かづら
- 朝霧や瞼おもたき馬の上
- 野ざらしを見て通りけり秋の雨
- 土べたに辛子さめけり盆の月
- 名月や墨摺くだす古瓦
- 後の月稲垣低き宿とりぬ
- 不二晴よ山口素堂のちの月
- 羽をかへすみさごに秋の入日哉
- 川面や華火のあとの楫の音
- うす紙の灯籠にてらす草葉哉
- おどる夜を月しづかなる海手哉
- むかひ火や父のおもかげ母の顔
- 霊まつやはしらさだめぬ宵の宿
- 魂むかひこゝろ碓氷を越る夜ぞ
- みな子なり霊まつ門に草箒
- しばしもとなき魂やどせ艸の露
- 魂まつり貧家の情ぞまことなる
- 先匂ふ真菰むしろや艸の市
- 松高し月夜烏も放生会
- 橘もあすかの里も衣うつ
- 我きぬを脱てうたせてきく日哉
- 人や住桃のはやしの小夜ぎぬた
- 新酒くまん四十九年の秋は何
- 早稲酒に垂打ばかり酔にけり
- 冬瓜汁空也の痩を願ひけり
- ことさらにつくらぬ菊ぞ九日なる
- 菊や咲我酒たちて五十日
- きりぎりす鳴止で飛音すなり
- とし四十蜩の声耳にたつ
- 竈馬や行灯につりしとうがらし
- 秋の季の赤とんぼうに定りぬ
- まつむしの啼音やさゆる銅盥
- 夜長さやところも替ず茶たて虫
- 艸の庵籠ぬけの 虫をやどしける
- 高浪や象潟は虫の藻にすだく
- 声暗しひるは別れて啼鹿か
- 鴈が啼君が四阿関屋かな
- 風落て綱懸の 鶉見日哉
- 鴫たつてくれの焚火のもる家哉
- 漆掻あたまのうへや鵙のこゑ
- 鶺鴒の庭籠を覗く流哉
- 山風や世を鮭小家の影ぼうし
- 落鮎のあはれや一二三の簗
- かけ稲やあらひあげたる鍬の数
- 露はれて露のながるゝばせを哉
- 空ぐせや尾花が末の猪子雲
- 猪をになひ行野やはなすゝき
- 宮城野や萩の下露川なさん
- 朝がほや垣にしづまる犬の声
- 渡る瀬にあらしの桐の一葉哉
- 菊咲て花ともいはぬあるじかな
- 酒造る隣に菊の日和かな
- 立出て芙蓉の凋む日にあへり
- 鶏頭の濃もうすくもあかき哉
- 此秋もわれもかうよと見て過ぎぬ
- 渋柿や嘴おしぬぐふ山がらす
- 牛の子よ椎の実蹄にはさまらん
- 毬栗の簑にとゞまるあらしかな
- 礒山や茱萸ひろふ子の袖袂
- ことごとに我もしらずよ秋の艸
- 落る日にあら海青き寒哉
- くらき夜はくらきかぎりの寒かな
- 氷る夜や双手かけたる戸の走り
- つくろはぬものや師走の猿すべり
- 月雪や旅寝かさねて年一夜
- 行年やひとり噛しる海苔の味
- はつしぐれたがはぬ空となりにけり
- 夜の雨はじめ終をしぐれけり
- 月は花はけふはしぐれの翁哉
- こがらしの吹よはりたる天守哉
- こがらしや大路に鶏のかいすくみ
- こがらしや潮ながら飛浜の砂
- 蕎麦刈や鎌の刃に霜を降こぼし
- 鐘の声霜を知る夜の眉重き
- 日に消ぬ霜とやかこつ母の髪
- 小夜あられ起見んばかり降にけり
- みぞれてもしらじらつもる穂垣哉
- 降晴て雪氷るかに光さす
- 飛たつは夕山鳥かゆきおろし
- あかつきや氷をふくむ水白し
- 庭艸のよごれしまゝに風の凍
- 浅からぬ鍛冶が寐覚や冬の月
- 寒月や石きり山のいしぼとけ
- 馬のあとかれ野の野越いそがるゝ
- 七つ子にあふてさびしき枯野哉
- 猪の篠根掘喰ふかれ野かな
- 臘八にせめて疑ふ人もがな
- 髪置は千代経て白きためしかな
- 年のほど十夜詣と呼れけり
- 樒売家も十夜のともしかな
- 達磨忌や履ふみきりし箱根山
- 達磨忌の口とりは昆布に山椒かな
- 達磨忌や寒うなりたる膝がしら
- 川ぞひや木履はきたる鉢敲
- 替履のうしろさびしや寒念仏
- 引す ゝむ大根の葉のあらしかな
- 捨られぬものは心よ冬籠
- 冬籠こもり兼たる日ぞ多き
- 埋火や夜学にあぶる掌
- 埋火やうちこぼしたる風邪薬
- 炭がまやぬりこめられし蔦かづら
- 語る夜のつきづきしさよ桐火桶
- 人老て炬燵にあれる踵かな
- いちはやくもへて甲斐なし穂だ榾の蔦
- 網代木のそろはぬかげを月夜かな
- とし籠攅火の御燈おがみけり
- から鮭の口はむすばぬならひかな
- 鰒の声砂にまぶれて弱りけり
- 鰒汁やおもひおもひの八仙歌
- 酒桶にちどり舞入嵐かな
- 鴛鴦啼や一節截吹やせ男
- あと先に雀飛びけり三十三才
- くゞゐ鈍く鳰鳥はさとき汀かな
- 水鳥や江をうつ芦の下はしる
- 木兎の昼は見えずよ三輪の森
- 艸がれや風そらざまに脊戸の山
- 履につく霜の落葉や朝まだき
- ふきいれし木の葉に琵琶のそら音かな
- 日に悲し落葉た ゞよふ汐ざかひ
- 夜の音木のは身を刺おもひあり
- 茶の花にたとへんものか寂栞
- 茶の花や誰が箒せし里の道
- 暁の山茶花白し落がはら
- 橙や蔵にそふ江の寒からず
- 組かけし塔むつかしや冬木立
- 冬川や蕪流れて暮かゝり
- かへり花咲よしもなく咲にけり
- 畑中や種麦おろす麻ぶくろ
加舎白雄 プロフィール
加舎 白雄(かや しらお、元文3年8月20日(1738年10月3日) - 寛政3年9月13日(1791年10月10日))