水かぶるやうにサンドレスをかぶる 西山ゆりこ
季語には本意があります。例えば「夏草」であれば人の世の無常。芭蕉の「夏草や兵(つはもの)共がゆめの跡」にちなんだものです。名句が生まれるたびに、新たな本意が付け加わります。ですから歴史の長い季語には数多くの本意が繋がっています。名句を読むとは、それを一つ一つ解き明かしてゆくこと。だから俳句は難しく。でも面白い。まさに季語をめぐる冒険なのです。では新しい季語の場合はどうか?サンドレスという夏の季語の本意を探ってみましょうか。
この句のお陰でサンドレスは着るのではなく、かぶるものだと知りました。私には身につける機会がなく、もっぱら見るだけのもの。着る人だけにわかる実感の句です。サンドレスとは「夏の日差しを思い切り楽しみ、健康的な小麦色の肌に日焼けするために、肩や襟ぐり、背中を大きくあけた女性用の洋服のこと」と大歳時記に。素肌につけるものですから、「かぶる」と言う動詞が生きてきます。水をかぶれば身が引き締まります。祈りの場面や何かの行動を起こすとき。大事な場所へ向かうとき。ちょっと日常を離れた場面を思い浮かべます。そうだとすれば、サンドレスをかぶるときも、ちょっとした覚悟を秘めているのでしょう。サンドレスは夏の日差しを楽しむためのものですが、それだけではない。いわゆる勝負服のような役割があるのかもしれません。これから出かける場所は海?避暑地?それともデート?サンドレスの本意は、小さな決意。そんなことを、この句から考えさせられました。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
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