かたかごのはな「堅香子の花(春)植物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

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かたかごの花に影なき疎林かな  恩田侑布子「夢洗ひ(2016)角川書店」

かたかごは片栗のこと。古名を堅香子と言います。明るい林に群落を作るユリ科の多年草。句の意味は、「木がまばらな林の中に咲く片栗に影がない。屈託のない姿で咲いているよ」

片栗と言えば思い出す歌があります。万葉集の中でただ一首、片栗の花を詠んだと言われる歌です。「もののふの八十娘子らが汲みまがふ寺井の上のかたかごの花 大伴家持」大勢の若い娘たちがやってきて、入り乱れて水を汲む井戸。その傍に咲く片栗の花のなんと美しいことよ。そんな意味になるでしょうか。片栗は俯き加減にひっそりと咲くうす紫の花。乙女の姿を思わせます。万葉の歌と掲句。千年以上もの時の流れを超えて向かい合っているように感じられます。和歌の格調を備えた一句だと思いました。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

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