古暦金本選手ありがたう 小川軽舟「朝晩(2019)ふらんす堂」
金本選手とは、広島東洋カープ、阪神タイガースで活躍し「アニキ」の愛称で親しまれた金本知憲さんのことでしょう。元プロ野球選手。元阪神タイガース監督。1999年から2010年にかけて達成した1492連続試合フルイニング出場と13686連続イニング出場は世界記録。古いカレンダーに金本選手の写真が載っていたのでしょう。それを見ていて、当時の気分を思い出した作者。それで自然に「ありがたう」という言葉が出てきたのでしょう。関西でのサラリーマン生活が長い作者ですから、おそらく阪神時代のカレンダー。金本選手という選択が絶妙ですね。今ではないが、昔でもない。適度の懐かしさです。
ところで古暦とは新年になってから、旧年の暦を指していう言葉。暦という古めかしい語感からは、野球選手の姿はなかなか浮かびません。ですから句の中に、金本選手の名前を見つけてはっとします。私はそこに季語の呪縛を感じます。暦といえば伝統的な図柄。スポーツが登場するはずがない。無意識のうちに私たちはそう思い込んでいます。いつの間にか、脳裏に刷り込まれていく季語の本意。それは必要なことですが、時代の変化に合わせて意味を付け加えてゆくことも大切。現代の俳人の仕事は、概ねその両者の間の葛藤から生まれるようです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html