木曽川の今こそ光れ渡り鳥 高浜虚子
有名な句ですが、私は長い間「木曽川よ今こそ光ってくれ、渡ってゆく鳥たちに」という意味だと思っていました。実際は「木曽川が今光っているよ、渡ってゆく鳥たちに」なんですね。これは係り結びの一句。高校時代、古文の時間に習った遠い記憶がありますが、内容はすっかり忘れていました。「こそ」という係り助詞に対して、結びが動詞の已然形になるのです。「光る」という動詞は四段活用。
光ら(ず) 光り(て) 光る 光る(こと) 光れ(ば) 光れ(よ) と変化します。私が「光れ」を命令形と思い込んでいたのに対し、実際は已然形。「光る」を強調した言い方だったのです。やれやれ。
俳句では、「こそ」を文末に用いることもあります。
どかと解く夏帯に句を書けとこそ 高浜虚子
「こそ」がくれば結びは已然形のはず。どうなっているのでしょうか。実は「いへ」が省略されているのです。「いへ」は「いふ」の已然形。補えばこうなります。
どかと解く夏帯に句を書けとこそ(いへ) 「夏帯に句を書いてくれ、と言ってどかと帯を解いた」という意味。花街の女性なんでしょうか。女性が男性の前で自ら帯を解くなんて、さすが虚子先生。いつかは、こんな大胆な句を詠んでみたいものです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html