かんごい「寒鯉(冬)動物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

B!

寒鯉や人手に渡りたる屋敷   片山由美子「飛英(2019)角川書店」

なるほど、そんなこともあるのかと思いました。屋敷を処分するときのことです。土地が売られるときは、母屋や離れも一緒です。庭石や築山も、屋敷とともに人手に渡るでしょう。この句では寒鯉もそうだと言っているのです。不動産ではないはずの鯉が、屋敷の付属物として扱われる不条理。切ない気持ちになるのは寒鯉が生き物だから。錦鯉であれば、人に飼われるべきもの。しかし、愛情を注いでくれた飼い主はもういません。

そんな運命を知ってか知らずか、水底に沈んでじっと動かない寒鯉を見ていると、一層寒さが染みてきます。では飼犬は?犬や猫ならば飼い主といっしょに引っ越してゆくでしょう。同じペットなのに犬猫は去り、鯉は置き去りにされる。寒さが厳しい折の寒鯉だから一層しみじみとします。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

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