あかいはね「赤い羽根(秋)行事」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

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ひざまづき挿してもらひぬ赤い羽根  金子敦「シーグラス(2021)ふらんす堂」

赤い羽根は、毎年十月一日から一ヶ月間行われる共同募金。街頭で、募金した人の胸に赤い羽根がつけられます。掲句は「ひざまづき」がポイント。ここではお金を払った方が膝を折ります。他の場合であれば、お金をもらった方が頭を下げるはず。おそらく、募金を呼びかけているのは子どもで、大人が身を低くして羽根をつけてもらっているのでしょう。立場が逆転した一瞬を、作者は見逃しませんでした。

赤い羽根はつけてもらうのが慣例。でもブローチを買ったら自分で身につけますよね。そこが不思議といえば不思議です。

そのことを考えていて、ふと戴冠式を思いました。王冠は自分で被るものではありません。王は司祭の前にひざまづき、司祭が厳かに冠を王の頭に乗せる。なぜなら王は神が選ぶものだから。司祭は神の代理です。市民革命が起こる以前のヨーロッパでは、王権神授説が唱えられ、神に選ばれた王が絶対的な権力を行使しました。

同様に赤い羽根を授けるのは、募金を呼びかける人ではなく、共同募金会でもない。彼らは何かの代理にしか過ぎない。その何かとは、広い意味で社会の善意を代表するもの。例えば「おてんとさまが見ている」という時の、おてんとさまのような存在。遥かな存在に対して人はひざまづく。私にはそう思えてならないのです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)

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