古代ギリシャの人々は夜空を見上げて、神々や神獣などの姿を見出しました。手元に星座の図として名高いフラムスチード天球図があるのですが、図の精緻さとくらべて、構成する星の数があまりに少なく首を傾げてしまいます。
例えばカシオペア座。カシオペアはエチオピアの王妃で、娘アンドロメダの美貌を自慢したため神の怒りを買います。娘を海の怪物のいけにえに捧げなければならなくなり、その窮地を救うのが英雄ペルセウス。ただし本稿とは関係ありません。カシオペアは北天に見られる星座ですが、わずか5個の2,3等星がWの形に並んでいるだけ。Wからエチオピアの王妃を連想するのは、かなりの離れ業です。
人間の脳には、部分から全体を想像するという機能があります。欠けた部分を補うことが出来るからこそ、星座が生まれ語り継がれてきたのです。実は、俳句もこの脳の機能に依っていると私は思っています。次の句を見てください。
巻尺を伸ばしてゆけば源五郎 波多野爽波
すごく省略がきいた一句です。巻き尺を伸ばしてゆけば、通常まず地面があり、草がはえており、水辺があり、水面があり、その先に源五郎がいたはずです。ところがこの句では地面、草、水辺、水面をすっとばして、いきなり源五郎に行き着きます。水辺や水面は書かれていませんが、それでもちゃんと想像できる。それが脳の働きです。わずか2~3の単語から大きな世界を再現。まるでフリーズドライの粉にお湯をかけて、香り高いコーヒーが生まれるようなものです。世界を圧縮したものが俳句。お湯をかけて解凍するのがあなたの脳。
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