俳句で使われる助詞には交換可能なものがいくつかあります。代表的なものに「の」「に」「は」など。しかし微妙に意味が変わります。どれがベストなのか、探し当てるのも俳句作りの楽しみのひとつです。私は岸本尚毅さんに以下の例を教えてもらいました。
住吉に住みなす空は花火かな 波多野爽波
住吉(地名)に長年住んできた私にとって、空とは花火のことだと格調高く詠いあげた一句。この句の助詞を取り換えてみます。
住吉に住みなす空の花火かな
空の花火と迷いなく読め、疑問が残りません。最も一般的なかたち。今、空には花火があがっています。
住吉に住みなす空に花火かな
私は長年住吉に住んできた。今、その空に花火があがっているという意味に変わりました。住みなすと花火の間に時間の経過が読み取れます。住吉に、空に、と「に」が続くことから少々リズムが悪くなっています。
住吉に住みなす空は花火かな
原句のかたち。空イコール花火となり、空いっぱいの花火、あるいは 空というものは花火なんだと断定するかたちとなります。スケールがぐっと大きくなっているのがわかりますか。高柳重信がこの「は」を絶賛したという逸話が伝わっています。
住吉に住みなす空や大花火
切字の「や」も検討してみましょう。「やかな」を避けるため下五を大花火としてみました。切れが生まれ俳句らしくなりますが、少々堅苦しいと感じる人がいるかも知れません。
岸本さんによれば「の」は送りバント、「に」はヒットエンドラン、「は」は走者一掃のホームラン ただし 失敗すると三振というイメージになるそうです。その違いをよく味わってみてください。
掲句には後日談があり、ある俳人に「住吉に住みなす空の花火かな」のほうがよいのでは、と指摘され、爽波が激怒したとのこと。プロの俳人同士でさえ意見が異なる微妙な助詞の用法。いつもは無難に「の」を多用する私ですが、一度くらいは「は」で勝負を掛けてみたいと思っています。
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html