心中もの妻と見し夜の春炬燵 小川軽舟「朝晩(2019)ふらんす堂」
心中ものとは、心中や情死を題材とした江戸時代の人形浄瑠璃や歌舞伎のジャンルの一つ。近松門左衛門の「曽根崎心中」などが代表作。義理と人情にがんじがらめにされ、心中に追い込まれてゆく男女の姿を描きます。「此の世のなごり。夜もなごり。死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜」で始まる曽根崎心中の道行の段はあまりにも有名です。禁じられた恋の行方。死をもって完結する情熱。奥様と一緒に見るには緊張を強いられる演目です。帰宅後の春炬燵で、身も心も緩んだことでしょう。二人の会話はどんなものだったのか。艶やかさのある春炬燵という季語が、想像を膨らませてくれます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html