咲き満ちてこぼるゝ花もなかりけり 高濱虚子
季語の成分だけで一句が成り立っている句を一物仕立てと呼びます。この句は満開の桜が咲き誇っている情景。俳句の画面に写し出されているのは桜のみ。写真でいえば、満開の桜を見つけ、一花も散っていてはならず、一点の雲もない天候のもと、時間帯も最高で、色も艶もかたちも完璧で、匂うような美しさをたたえた桜。そんなイメージでしょうか。現実の世界ではありえない完全さを俳句の世界では追求することができます。それを成し遂げているのが、虚子のこの句。
動画を撮れば、車や街のノイズが入り込みますし、桜は排気ガスで弱っていて、酔っ払いが根元に寝ころんだりしています。しかし俳句では理想の景色が思いのまま。あなたも黒沢明に簡単になれるのです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html