俳句をはじめて面食らうのが「言いたいことを言ってはいけない」というルール。じゃあ、何を言えばいいの?と疑問が湧いてきます。
答え。「言う必要はありません。ただ景を描写すればいいのです」
俳句は短い詩ですからメッセージを発信するには向いていません。言おうとすると標語になったり、スローガンになったり。これでは読者の心にしみいりません。読者には感じてもらうことが大切。そのためには描写が有効なのです。映画を思い出してください。いい映画は映像で語りますが、つまらない映画は科白で説明します。どちらが観客の心を打つか、答えは明らかでしょう。
私の印象に残っている映画をあげてみましょう。例えば「2001年宇宙の旅」この映画にはセリフが少ししかありませんでした。
しかし残した印象は強烈です。映画の冒頭、敵を殺めた猿人が武器として使用した骨を宙に投げ上げます。次のカットで骨は宇宙船に変わります。映画はこの部分だけで人類の進化という壮大なテーマを語ってしまいます。
ちなみにここにはモンタージュという技法が使われています。数百万年の時間をすっ飛ばし、骨と宇宙船を編集によって直接つなげることで、道具というものの過去と未来を示しているのです。
このモンタージュ、俳句では「取り合わせ」と呼ばれます。世の中はSNSブームですが、もしあなたが動画の編集に慣れているなら、俳句はうってつけのジャンルです。撮影された映像が俳句における素材。映像の編集が俳句の推敲。俳句はカメラを使わない短編映画です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html