白梅の中抜けてきし鳥のかほ 名取里美「森の蛍(2020)角川書店」
近所の公園に行ってみると、一月の中旬にもう梅がちらほら咲いていました。メジロ、シジュウカラ、コゲラの声がします。蝋梅は七分咲きだったものの、この時期に咲いている花は稀。春を告げる梅の開花は、人間だけでなく鳥たちにも待ち望まれていたのです。中でもメジロは蜜を吸う鳥。もしかしたら、誰よりも梅を待望していたのは彼らだったかもしれません。ですから、掲句の鳥はメジロではないかと思うのです。緑色の小さな鳥で、体長12センチ体重11グラム。雀が14.5センチ、24グラムですからいかに小さいかおわかりでしょう。体重は雀の半分以下。まさに羽のように軽いのです。目の周りに白いリングがあることから目白と呼ばれます。梅に鶯、という言葉がありますが、鶯は藪に住む鳥ですし、昆虫や木の実、草の種子を食べますから梅の木で見かけることはあまりありません。色もオリーブがかった褐色でメジロの方がずっと鮮やかです。花の蜜のない冬をじっと耐え忍び、やっと梅に出会ったメジロたち。その表情は笑顔?だったに違いありません。
ちなみに梅は、中国原産。日本へは八世紀に入って来たそうです。万葉集には119首もの梅の歌が収められており、当時は花といえば桜ではなく梅だったとか。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html