せいしゅんえい 青春詠【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】

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夏潮へ碇のごとくこころ投ぐ  堀本裕樹

この作者の句には、あの遠い日々の思い出が詰まっているように感じられます。ぎらぎら光る浜辺にある蜃気楼のようなひととき。時に青春とも呼ばれる特別な時代のことです。

掲句に登場する碇は石のおもり。綱をつけて水底に沈め、舟を係留します。今、力強い夏の潮が舟を押し流そうとしています。その海へ一抱えもあるような石を投げ入れる瞬間を詠みとめた一句。石とともに私の心まで飛んで行くようだというのです。その一瞬舟は大きく傾ぎ、心が波立ちます。しかし石はすぐに沈み水面には何も残りません。何か心にわだかまりがあって、それを消してしまいたかったのか。具体的な内容は想像するしかありませんが、恋かもしれませんし親との確執かも知れません。それを海に放った時、作者の心は揺れやがて鎮まります。作者が青春を過ごしたのは和歌山県。熊野は紀伊半島の南端でもうここから先に陸はありません。しかし海はここから始まります。大洋へ漕ぎ出せば広い世界へ繋がっているのです。ごうごうと流れる夏潮が、遥かな場所へと若者を誘います。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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