沈む鯨よウミユリの化石まで 蜂谷一人「青でなくブルー(2016)」
今回は自作ですので、自句自解となります。気恥ずかしいのですが、よそ様の句をさんざんあげつらって、自分を棚にあげるのは忍びないと思い、挑戦してみることにしました。
さて鯨です。最近でこそ自然番組で泳ぐ姿を見られますが、かつては生きた姿を見ることの少ない動物ではなかったでしょうか。見たことのないものに人は想像を膨らませます。星座になった鯨もいます。ベルヌの海底二万マイルではダイオウイカとまっこう鯨の死闘が描かれていました。そして白鯨。白い悪魔と呼ばれ、人間の果たせぬ夢の象徴です。
掲句では鯨がゆったりと深海へ沈んでゆきます。巨大な体が大渦巻きを起こし、近くの舟も樽も人も引きずりこんでゆきます。沈むにつれ明るいブルーだった水の色は矢車菊の紺に変わり、やがて藍に。最後には墨の色に変わります。行き着くところは古代生物の墓場。ウミユリはおよそ五億年から四億五千万年前のオルドビス紀に出現し、古生代、中生代に栄えた生物です。トランペットのような首を伸ばし、沈黙のファンファーレで深海の王の帰還を迎えます。
鯨の海面から深海への移動は、現在から太古へと時間をさかのぼる移動と重なるという幻想が一句になりました。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html