絵の少女生者憎める冬館 高柳克弘「寒林(2016)フランス堂」
「冬館というと、冬に備えてしつらえをした大きな洋館が連想される」と歳時記に。なるほど、洋館という訳です。例えば丘の上に立つ古く大きな館。街を見下ろしています。誰が住んでいるのか、街の人に尋ねても答えてくれません。或る夜忍んでいった「私」は、シャンデリアの煌めく部屋で美しい少女に出逢います。彼女は壁にかけられた古い絵の少女にそっくりでした。
こうした物語は文学史上、ゴシック・ロマンスと呼ばれます。18世紀から19世紀の初めにかけて英国で流行した幻想小説のこと。ホレス・ウォルポールの「オトラント城奇譚」を先駆として、私が愛してやまない数々の名作が生まれました。メアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」やブラム・ストーカーの「ドラキュラ」もこの系譜に属する作品です。
ゴシック・ロマンスを持ち出したのは、「絵の少女生者憎める」という措辞があったからです。描かれた少女は、遥か昔にこの世を去っています。絵の中では歳を取らず永遠に若く美しい。しかし館から抜け出すことは出来ません。だから生者を憎みます。自由に行き来できる彼らが妬ましく、また彼らの立てる雑音が不快でもあるのでしょう。少女の安息を乱す館の訪問者は報復を受けることになります。ゴシック・ロマンスならばこういう筋立てになるはずです。
現代俳句でありながら、19世紀風の味わいを持つ一句。いえ、むしろ現代の幻想作品、例えば萩尾望都の傑作「ポーの一族」に似た世界観なのかもしれません。美しく残酷で、心惹かれる小品です。
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)