しゅうかいどう「秋海棠(秋)植物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

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律のこゑ秋海棠の花のこゑ  小島一慶「入り口のやうに出口のやうに(2019)ふらんす堂」

TBSアナウンサーとして、後にフリーアナウンサーとして活躍された一慶さんが、病を得て亡くなったのは2020年4月23日のことでした。俳句のイベントにボランティアで参加され、通る声で司会を務めていらっしゃった姿を思い出します。闘病の中で出版された句集には、余技とは思えない格調の高い句が並んでいます。そこからは故人の俳句に向かい合う真摯な姿勢を窺い知ることができます。
掲句は根岸の子規庵で詠まれたもの。律は正岡子規の妹。脊椎カリエスに苦しむ兄を看病し看取った女性です。一慶さんが子規庵を訪れたのは秋だったのでしょう。庭に咲く秋海棠に妹の声を聞いたというのです。ピンクの小さな花を下向きにつける秋海棠。控えめな女性の物腰を連想させる花です。
病床の子規は庭の草花を描くのを楽しみとしていました。秋海棠、桔梗、鶏頭などの彩色された絵が残っています。

草花を画く日課や秋に入る  正岡子規

三十四歳で亡くなった子規。句集の出版からわずか九ヶ月で亡くなった一慶さん。二人の残したものを考えると、一句の奥行きは深いものになります。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)

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