先日の「俳句さく咲く!」で櫻井紗季さんがこんな句を詠みました。
寝覚めては耳鳴り響く虫の声
櫂未知子さんが、時刻はいつか尋ねたところ「朝」という返事。紗季さんは朝、うるさく鳴く蝉を詠んだそうです。ならばと櫂さん。「虫という季語は使えません」どういうことでしょう。
日常会話では「虫」は蝉を含めた昆虫全般を指しますが、俳句ではこおろぎや鈴虫のように秋の夜に鳴く虫のこと。夏の朝や昼に鳴く蝉には使えません。虫は夜の季語。しかも鳴き声を詠むもの。蝉は昼の季語。夜鳴く蝉には「夜の蝉」、昼鳴く虫には「昼の虫」という別の言葉が当てられます。このように季語には時間帯と不可分なものがあります。
ところで紗季さんだけではありませんでした。塚地武雅さんもやらかしています。
虫の音が目覚まし代わり実家かな
この虫の使い方も誤り。こちらも蝉を詠んだ句でした。
季語を斡旋するときには、まず昼か夜かを考えます。ついでに屋内か屋外かを考慮できれば完璧。流星(秋)を詠むなら夜の屋外。夜なべ(秋)なら夜の屋内という風に。時間と場所の別を考える癖をつけておくと、必ず作句に役立ちます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html