ひやししるこ「冷し汁粉(夏)」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

B!

虚子論も冷し汁粉を食べながら   坊城俊樹「壱(2020)朔出版」

作者は高濱虚子の曽孫にあたるひと。普通の人ならば食べながら虚子を論じたりしませんし、仮にしたとすれば少々不謹慎。しかし血のつながった一族であれば、そんな気軽さも許されるのではないでしょうか。冷し汁粉というのがポイント。きっと暑いさかりです。花鳥諷詠とは何かといった面倒くさい話は願い下げ。きっと軽いテーマなのでしょう。場所は甘味屋。相手は女性かもしれません。ひいおじいちゃんの話題で盛り上がることもあるでしょう。

こんな風に読むと肩の凝らない句のようにも思えます。しかし、句集のあとがきに作者はこう記していました。「そもそも私は、俳句の家に生まれ、俳句に呪われたような人間である。」呪われたような、という箇所でどきっとしませんか。ここまで虚子一族の明るい面だけを見てきました。実は宿命として俳句を背負ってゆかなけばならない家系でもあるのです。夏の昼、女性と会話が弾むべきところ、先祖の業績について語らなければならない作者。そこには、血縁のしがらみが、重くのしかかっています。そう考えると冷し汁粉も、どろどろと濁った重苦しい食べ物のように感じられてしまうのです。

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

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