あらたなる風てのひらの空蝉に 日下野由季「馥郁(2018)ふらんす堂」
空蝉は蝉の抜け殻。山を歩くとよく、抜け殻が木の幹をつかんでいたり、道に転がっていたりします。骸のようにも見えますがそうではありません。本体はすでに大空へ旅立っていますから、残された古い着物といったところでしょうか。思い出が詰まっています。でも、もう着られません。持ち主に捨てられた存在と考えると、哀れでもあります。作者は空蝉を拾い上げ掌にのせます。風が吹いてきました。新たないのちを得たように空蝉が揺れます。空へ飛びだしそうです。役割の終わったものにも、自然は平等に働きかけます。小さなものにそそぐ作者の眼差しが確かです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html