- 三日月の鎌や触れけん桐一葉
- 初染や藍の泡立ち快う
- 春の夜や衣桁の裾にひそむ鬼
- 窓あけて見ゆる限りの春惜む
- 海を出る日を見て下ろす青簾
- 名月に瀬戸のなごろの高さかな
- 門田植ゑて紀の水戸に水つづきけり
- 海のある国うれしさよ初日の出
- 鵯鳴いて淋しき杉の木立かな
- 初鶏や火を得し太古あらたふと
- 窓あけて見ゆるかぎりの春惜しむ
- 石を煮て雲つくらんか今年竹
- ひっくくりつっ立てば早案山子かな
- 花人を泊めて衣桁をつらねけり
- 皿にふるる手首の数珠や心太
- 日盛りや走る草履に火のつかん
- 玉筋魚のいり場寝ぬ燈や海朧
- 秋立つや無風圏内の潮の色
- 森どよむはやて氷雨をさそひけり
- 雀の子早う帰りゃれ燈がともる
- 寒行僧早め来つるよ夕しまき
- 行者登りし足跡よりぞ雪解くる
- 心澄みゆけば落葉の香もそぞろ
- 声出して見たり独居の秋のくれ
- 山鴫の崖おりてくる寒日和
- まじなひに箕であふがれつうそき
- 一足の足袋も破らず冬篭
- だまり鵙来て夕冴えの梢揺る
- 埋木と共に掘られぬ烏貝
- 朝寝髪撫でもつけずに茶摘笠
- 窓あけて見ゆるかぎりの春惜む
- 花のぞく身さかしまの行者かな
- 大旱の月も湖水を吸ふと見ゆ
- さぼてんも初めて涼し庭の隅
- 合歓の実のゆるゝよ霧る日おぼめきて
- 圭角を以て聞えぬ生姜酒
- 神集ひ乗り捨てましし雲泊る
- 削掛火種ふく袖かはし行く
- 虫くひの古きもほぐや飾臼
- 掃初に飛石の雪を払ひけり
- 織初や襷せぬ袖ひるがへし
- 薺粥箸にかゝらぬ緑かな
- 前髪に初卯戻りの御札かな
- 店の燈に髪焦しけり宵戎
- 荒神の昏き方にも初灯
- 鶯の落し子もあれや藁盒子
- 驢を牽いて老も年木をさし荷ひ
- 袂から鶯出せよ国栖の奏
- 紡初めて絲の長恨新なり
- 年棚の下避けて稲つみにけり
高田蝶衣 プロフィール
高田 蝶衣(たかだ ちょうい、1886年1月30日 - 1930年9月23日)