枕草子に出てくる「いとをかし」。大層趣き深いことだなあ、と訳されるアレ。「いと」は大層という意味の副詞です。俳句ではめったにお目にかかりませんが、あることを見分ける際に重宝します。それは、名詞と形容動詞の違い。そんなの、区別できなくても全然平気じゃん、と思ったあなた。実は区別できないと困ることがあるのです。
俳句で頻出する切字の「かな」は名詞に接続しますよね。では「静かかな」と詠むことはできるのでしょうか?いかがでしょう、ちょっとまごつきませんでしたか。
答えはブー。静かかな、は文法的に誤り。何故なら「静かなり」で一語の形容動詞なので、「かな」はつきません。こんなふうに、一見名詞に見えて、実は形容動詞である言葉はたくさんあります。形容動詞は「物事の性質・状態を表す」ことばですから、あはれなり、明らかなり、朗らかなり、うららかなり、泰然たり、平然たり、などがそれにあたります。うしろに「なり」や「たり」がつくのが特徴。ところが名詞に助動詞の「なり」がつく場合があるのでややこしい。こちらも机なり、箪笥なり、家具なり、などなど色々考えられます。では「机かな」「箪笥かな」と言えるかどうか?答えはピンポーン!もちろんOKです。机、箪笥、いずれも名詞ですから「かな」の接続OK。
そこで先程の話に戻ります。形容動詞と「名詞+なり」の見分け方。それは「いと」をつけてみればいのです。中岡毅雄さんの文法の本で教わりました。
いと静かなり、いと明らかなり、いとほがらかなり はいずれも正解。
いと机なり、いと箪笥なり、いと家具なり はいずれも意味が通じません。「いと」がつくほうが形容動詞。こんな風に「いと」は形容動詞と名詞を見分けるリトマス試験紙の役割を果たしてくれるのです。覚えておけば、いと重宝なり。
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