ささご「笹子(冬)動物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

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むらぎもの心を統ぶる笹子かな   堀本裕樹「熊野曼荼羅(2012)文學の森」

笹子は冬の鶯。「鶯は、秋の終わりに山から人里に降りてくる。冬の間は茂みや笹原などにいることから藪鶯、あるいは笹子と呼ぶ。笹子は幼鳥の意ではない」と歳時記に記されています。厳しい冬を生きる鳥です。むらぎもは「心」に掛かる枕詞。群肝と書き、昔 心が内臓に宿るとされたことから生まれた言葉です。私には、この句から連想する作品があります。

目つむりゐても吾を統ぶ五月の鷹   寺山修司

寺山の代表句、そして青春の句です。目を瞑っていても、自分の心の中には眩しい五月の青空が広がっている。鷹は遥かなもの、猛々しいものの象徴。空を舞う一羽の鷹に自身の孤独と自由、そして微かな驕りを重ねているのでしょう。青春の輝きと危うさが短い言葉で描かれた名句。この句にも掲句にも統べる(支配する)という動詞が用いられ、鳥と若者の関わりが描かれます。もしかしたら、掲句は寺山へのオマージュなのかもしれません。

では、笹子が統べる心とはどのようなものでしょうか。笹子は冬の鶯ですから鉛色の重たい空。荒涼とした枯野に潜んで春を待つ鳥です。今はさえずりませんが、時がくれば必ず美しい歌を世に響かせることでしょう。「熊野曼荼羅」は作者の第一句集。深読みすれば「まだ世に知られていないけれど、必ず自分の作品が認められる日が来る、という強い思いなのではないでしょうか。

句集の前書きに作者の恩師に当たる鎌田東ニさんがこう記しています。

「大学卒業後、堀本氏は出版社に勤めていたが、数年して郷里の和歌山に帰り、その間しばらく音信不通になった。が、しばらくしてふたたび上京し、編集の仕事をしながら本格的に俳句を作るようになっていった。その間の堀本氏の精進努力の一端を私は見ている。俳句への情熱と精進は誰にも引けを取らぬものがあったと断言できる」

音信不通になったという言葉が目を引きます。その時期、さえずる時のためにひそかに切磋琢磨されていたのかもしれません。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)

 

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