けんじき「健次忌(秋)行事」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

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健次忌や夜雨に爆ぜる鳳仙花  堀本裕樹「熊野曼陀羅(2012)文學の森」

健次忌は作家・中上健次の命日。8月12日です。中上は、郷里である熊野の風土と、錯綜する血縁関係をもつ人々の愛憎を、ギリシャ悲劇を思わせる重厚さで描き切りました。作風はときに荒々しく、ときに幻惑的に、と評されます。掲句の作者は句集の後書きにこう記しています。「紀北と紀南の風土の影響を受けて育ってきた私だが、先祖代々の血脈が熊野人であるだけに、俳句に向き合うときに意識するのは、やはり熊野の血である。その熊野出身の作家に中上健次がいる。中上健次は、平成四年八月十二日に逝去した。奇しくもその日は私の十八歳の誕生日であった」高校生の頃から郷土の作家である中上に私淑していたという作者。健次忌が彼にとって、大きな意味を持つ言葉であることは間違いありません。さらに、この句に登場する鳳仙花は中上の小説のタイトルの一つ。健次忌と鳳仙花。オマージュにオマージュを重ね重層的な世界を創り出しています。鳳仙花の蒴果は熟すと弾けて黄褐色の種子を飛ばします。夜雨に爆ぜる鳳仙花は、泡立つ作者の心の投影なのでしょう。

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)

 

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