まず、短冊を用意します。よくテレビに登場する俳人のイメージに、宗匠頭巾をかぶり、手には短冊と筆、というものがあります。はっきり言って、いまどきそんな格好をしている俳人はいません。それは芭蕉のコスプレ。現代の俳人とはかかわりのない姿と断言しておきます。脱線しましたが、芭蕉のコスプレが持っている和紙の短冊。あれは高価で日常使うものではありません。句会で使う短冊は、A4のコピー用紙を横に八等分、または十六等分したもの。裏が白ければ印刷された紙でも構いませんが、企画書などは用いないこと。そこから大切な情報が漏れないとも限りません。
さて句会では三句から七句程度を短冊に書いて提出します。一人五句で十人の句会であれば五十句が集まります。これをシャッフルして手分けして五句ずつ清書します。楷書で読みやすく間違えないように書き写してください。あなたが今清書した句は、作者がひと月寝ないで考えた句かもしれません。その句を書き間違えたら大変。作者の悲しみはいかばかりでしょう。
これで五句ずつ清書した紙が十枚出来上がりました。この紙を清記用紙と呼びます。清記作業を写経と呼んだりもしますが、丁寧に書き写すことで確かに心が静まってきます。
さて、これで作者の筆跡が消え誰の句かわからなくなりました。メンバーは四角か円を描くように座り、清記用紙には時計回りに一番から十番まで番号を振ります。書き終えたら右へ右へとこの紙を回します。野球と同じように、打ったら一塁へ(右へ)。回された紙の番号が増えて行くようにします。紙が回ってくると気に入った句を予選用紙と呼ばれるメモ用紙に番号とともに書き留めます。予選用紙は専用の紙でなく、ノートなどでも構いません。NHK俳句の司会をつとめる岸本葉子さんはジャポニカ練習帳を用いています。このノートは縦書きで俳句の選にぴったり。しかもどこの文房具店でも安価に売っています。
五句選であれば最終的に五句選べばよいわけですから、全部の句を書き写す必要はありません。それをやっていると、時間がかかってしまい隣の人がこつこつとペンで机をたたき始めます。俳人の岸本尚毅さんは「下手な句を写すと下手がうつる」とおっしゃっていますが、あながち嘘でもないような気がします。
こうして紙が一周し、あなたの手元には自分が清記した紙が戻ってきました。これで、投句された五十句をすべて見終わったことになります。この中から予選のメモを参考に自分以外の五句を選び選句用紙に書き写します。並選四、特選一など、選句数が句会ごとに決められています。
ある大家がテレビ句会で自分の句を選び話題になったことがありました。他のひとの句のレベルが低くて取る気がしなかったのかもしれませんが、それはレジェンドだけに許されること。あなたは決してやってはいけません。早く選び終わって他のひとが追いついていないようであれば、この時間にトイレに行ってください。
全員が選び終わると披講となります。披講役に選ばれた人が選句用紙を回収し、一枚ずつ番号とともに選ばれた句を読み上げます。自分の句が読まれたらすぐに名乗るやり方もありますが、私はお楽しみを後にとって置きたいほう。ひとまず句を読まれても黙っていることにしましょう。呼ばれた番号が手元の清記用紙と同じであれば、「はい」と返事して句の上に選んだ人の名前を書き込みます。特選であれば名前を丸で囲みます。書き込んだら「いただきました」とか「いただき」とか大きな声で告げます。どんなに注意していても集中力を欠いて書き漏らす人が必ず出てきます。そうならないよう、この「いただき」でちゃんと書きとめたことを確認します。披講が終わると、清記用紙を主宰が回収します。主宰がいない場合は、誰か司会役を選んでおいてください。披講役と重なってもかまいませんが、披講と司会、両方やるとなるとかなりの負担となりますので、句会のあとにビールをおごる必要があります。
披講の次は点盛りです。並選一点、特選二点などと決め、それぞれの句の合計点を出します。それが終わるといよいよ合評です。どの句から鑑賞しても自由ですが、主宰の特選句や高点句からのことが多いようです。一句ずつ、選んだ人が理由を述べ(選評)、そのあとで作者が名乗ります。ここが句会のクライマックスです。大人になって褒められることはあまりありませんが、句会で名乗ると一座の賞賛が得られます。主宰の特選であれば、「生きててよかった!」と感じるほどの嬉しさです。決して誇張ではありません。是非あなたも主宰の特選を経験してみてください。反対に坊主といって一点も入らないとかなり落ち込みます。すべての点の入った句の名乗りが終わると句会は終了。時間によっては、特選や高点句のみ選評を行い、他の句は名乗りのみとすることもあります。これが句会のおおまかなルールです。
四百年もの間俳句が受け継がれてきたのは句会があったればこそ。主宰も一般参加者も名前を伏せて選びあう民主的なシステムが、封建時代の日本で生まれたことはひとつの奇跡のようにも感じられます。
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