サラダバー横歩きして銀漢へ 森山いほこ「サラダバー(2016)朔出版」
句集のタイトルとなった一句。銀漢とは天の川のこと。ただし天の川とは少々趣が異なります。銀漢が一粒一粒の星の集まりなのに対し、天の川はのっぺりとした白い帯、とでも言えばいいでしょうか。ある句で、宮坂静生さんがそんな指摘をしていらっしゃいました。聞いて、なるほどと思ったことを覚えています。銀漢を星粒の集まりと考えると、掲句が読み解きやすくなります。
ホテルなどでよく見るサラダバー。ここでは上層階のガラス張りのレストランを想像します。色とりどりの野菜を、花を摘むようにとってゆくと白磁の皿にお花畑が出来上がります。トマトの赤、レタスの緑、紫玉葱。そうだ、ゆで卵の白と黄もトッピングしましょう。横歩きしながら窓際へ進んで行くと、突然夜空に放り出されたような錯覚にとらわれます。下界にはビル群の灯。天上には銀漢。目を凝らせば星々にも色があって、青白黄赤。サラダの色を空に写しているようです。蠍の心臓に輝く赤い星アンタレスが昇ってくるころ、宴は佳境を迎えます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
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