捲りても捲りても駅霾ぐもり 森山いほこ「サラダバー(2016)朔出版」
春は黄砂が大陸から飛来する季節。空がどんよりと黄色っぽくなり太陽も霞みます。これが霾ぐもり。「捲りても捲りても駅」とは時刻表のことでしょうか。小さな活字が延々と続き、駅名と時刻を告げるのみ。そこにあるはずの景観や生活は、想像するしかありません。欄外に駅弁の情報があったり、仔細にながめれば楽しい本なのでしょうが門外漢にはさっぱり。紙の上の旅行が楽しくてたまらないという人もいれば、頭が痛くなるだけの人もいます。私?どちらかといえば後者でしょうか。以前は時刻表を買い求めていましたが、今はスマホのアプリで事が足ります。作者も多分後者。霾ぐもりのどんよりしたつぶつぶ感と、活字で埋め尽くされた時刻表の取り合わせ。絶妙ですが時刻表に好意的とは思えません。捲りても捲りてもというリフレインが徒労感を醸し出しています。蛇足ながら、松本清張の名作「点と線」は時刻表をもとにしたミステリーでした。緻密に読み解けば、スリリングなドラマさえ生み出す時刻表。その衰退に直面する現代の作家たちは「乗り換え案内」アプリでトリックを仕掛けるのでしょうか。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html